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          夜明け  
           
           夜明けはとても厳かだ。王者のように堂々と現れ、有無を言わせず世を支配する。
           
          「だから夜明けは嫌い」
           
           我侭な彼女は口を尖らせて呟く。僕はただ微笑み返す。
           
          「聞いてるの?」
           
          「聞いてるよ」
           
           地平線から太陽が覗く。時期を伺うような弱気さが微笑ましい。
           
          「本当判らない」
           
          「僕も」
           
           こんな時どう対応すべきか、そんな大切な事ほど学校では習わない。最後は自分で決めろってことだ。
           
          「夜明けみたいなものなんだよ」  次第に神々しさを益す地平線を見ながら、ふと思いついて僕は言う。  「君は嫌かもしれないけどさ、
           
          前向きな面だってあるにはある」
           
          「私はつまり」
           
           彼女が苛立たしげな声を上げる。太陽は地平線を跨ぎかける。
           
          「あなたが何を考えてるか判らないと言っているのよ。はっきりして」
           
          「つまりさ」
           
          「つまり?」
           
           僕は観念して顔を上げ、待ち構えていた朝日と対面した。
           
          「結婚しよう」 
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